スプリンクラーが作動した後の対応

ビルメンのお仕事

火災発生

10年近く務めた会社を辞める一か月前に起こった話です。

何の手当もつかない副責任者の任を解かれ、

有休消化突入まで、あと数日のイージーモードのある日のこと。

お昼になって、そのビルにあったお店でうどんを食べようと

通路に面したガラス越しのテーブルに座ったところ、

警備員が数名、血相を欠いて走って行くのが目に入りました。

「あーなんかあったな」

と、他人事のように眺めていたところ、今度は同僚設備員が

後を追うように走って行く・・と思いきや、キョロキョロと

周囲を見回し、ガラス越しに私と目が合いました。

すると、安どの表情で

「火事です!来て下さい!」

現場確認

「あと少しで退職なのになあ」と思いながら、全く手つかずのうどんを残して

現場に向かいました。

ランチのお店と同じフロアの奥にある中華料理屋が火元。

警報が鳴り響いて、辺りが騒然としていましたが、既に火は消し止められ

厨房の裏口から勢いよく噴き出すスプリンクラーが目に入りました。

かなりの水量なので、厨房の排水が追い付かず、通路にまで水が

溢れだしています。

バルブ閉止

全く火の気がないところに、大量の水が放射されている様が何とも

シュールでしたが、兎に角スプリンクラーの水を止めないといけません。

一応、知識としてその区画の制御弁を閉めないと、水が出続けるという

事は知っていたので、取り敢えず弁を閉めることに。

しかし、ここで疑問が湧きました。

「鎮火の断定を勝手にしていいのか?」

という事です。

鎮火したと思ったら、まだ燻っていたという例はよく聞く話しで、

制御弁を勝手な判断で閉じてよいのか判断に迷いました。

そうこうしているうちに、消防隊の第一陣がやってきたので、

ここぞとばかりに、後ろの方の一人を捕まえて尋ねました。

私:「あの、鎮火しているようなので、スプリンクラー止めてもよいですか?」

隊員:「あー、たぶん大丈夫だと思います。」

若い隊員さん、俺に聞くなオーラが出ていました。

ゴリゴリに組織化された消防隊で、末端の隊員に判断を迫るのは

よろしくなかったですね。

とは言え、制御弁操作は消防隊以外でも出来るという事が確認できたので、

弁を閉めることに。

(ちなみに制御弁はスプリンクラー制御弁室にあります。

日常点検時によく確認しておきましょう。)

・・・

しかし、弁を閉めたのに水の勢いが一向に収まりません。

結構な時間が経過しても、全く勢いが衰えない水量に

次第に不安になってきました。

「あれ、間違えたかな?」

如何せん、スプリンクラーの停止措置など、全く経験がないので

自分のやっていることに確証が持てません。

スプリンクラーの仕組み

湿式スプリンクラーの仕組みについて簡単に説明します。

スプリンクラーは炎の熱によってスプリンクラーヘッドが溶解して

常時圧のかかった配管内の水が噴き出す仕組みです。

(他にも乾式、予作動式などがあり、管内に水が満たされていない

タイプもあります)

水が噴き出すとセンサーが圧力の減少を検知して

地下階等にあるスプリンクラーポンプを起動させ、

継続した水の噴射により消火を行います。

一度起動したポンプは隣接された制御盤にある停止ボタンを押さない限り

回り続ける仕様になっています。

水の噴射を止めるには、制御弁を閉めるか、ポンプを止めるかになりますが、

基本的には制御弁の閉止を行います。

弁の閉止後は配管内が密閉状態でポンプが回ることになりますが、

ポンプには逃し管がついているので、暫く回しても支障はないそうです。

水の勢いが衰えない理由

バルブを閉めても水が止まらないので

取り敢えず後輩にお願いして、地下のスプリンクラーポンプを止めてもらいました。

・・・

それでも勢いが収まりません。

私:「このバルブで間違いないよねえ」

後輩:「・・と思います」

そこで、バルブを少し解放してみたところ、

”シュー”

という水が勢いよく流れる音が聞こえてきました。

私:「やっぱりこれで間違いないね」

後輩:「そうですね」

(ちなみにこの時若干バルブを開放したことで、再度ポンプが起動してしまいました。)

それが止水バルブであることが確認できたので

再度バルブを閉めたところ、消防隊の隊長が叫びました。

隊長:「おい、弁は閉めたのか?」

先ほどの若い隊員が私たちのところにきて弁を確認し

隊員:「バルブ閉まってます。」

消防隊の確証が得られたので安堵していたら、程なくして

水勢が収まっていくのが認められました。

どうやら、管内の残圧が原因だったようです。

その施設の規模や仕様により、状況は異なるかもしれませんが

どの現場においてもスプリンクラーが噴き出した場合、

バルブ閉止後すぐには水が止まらないと言えそうです。

対応について

この時は厨房での火災でしたので、放出された大量の水は

大部分が排水口に流れていきました。

通路にも大量の水が流れ出しましたが、大した被害はありませんでした。

しかし、オフィス階でスプリンクラーが作動した場合は

フロア全体が水浸しになりますので、被害は甚大です。

オフィス階では、誤噴射しないように予作動式などが採用されていると思いますが、

万が一誤作動した場合は、素早い止水が求められますので

制御弁の位置の確認と対処の手順を把握しておきましょう。

後から知りましたが、配管系統にはドレンバルブがありますので、残圧を抜くために

ドレンバルブを開放すれば、より早い放水停止が可能になると思います。

後に消防に聞いてもらいましたが、小火の場合に初期消火で明らかな鎮火が

確認できた場合は、各自の判断でスプリンクラーの止水を行ってよいそうです。

とは言うものの、実際の火災の場合、鎮火したかの判断は慎重に行わないと

タワーリングインフェルノになってしまいますので

燻っている場合は、適切な消火活動をして焦らず消防隊の到着を待ちましょう。

最後に

ビルメンに長く携わっていても、本当の火災に遭遇することは稀だと思います。

しかし、私の場合はそのビルに赴任した直後と、辞める寸前の二回火災を経験しました。

最初の時も小火でしたが、誰も指示命令する人がおらず、入社数か月の新人君と

移動直後の私が先頭に立って右往左往するありさまでした。

60歳前後の先輩作業員が他に7~8人いましたが、

誰も先頭に立って動いてくれませんでした。

ビルメンは楽な仕事で、日々まったりと過ごせる現場が多いです。

しかし、地震や火災等の有事の際にビルメンが担う役割は非常に重要なものになります。

我々ビルメンの判断が人命や資産に直結することもあります。

他の業種にない楽な日常を享受する代わりに、

末端ビルメンでも有事の際は、最低限の対応が出来るようにしておきたいと、

自戒を込めて思います。

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