残留塩素測定(水質検査)

ビルメンのお仕事

 水道の残留塩素の濃度を測定します。日常点検時に行いますので、ビルメンになって一番最初に覚える仕事かもしれません。

残留塩素って?

 水道水は水道法により塩素による殺菌義務付けられています。塩素は塩素系薬剤として水道に添加されるのですが、残留塩素はその水中に添加された塩素の残留成分の事を言います。

 残留塩素の種類には遊離残留塩素と結合残留塩素の2種類があります。2つの残留塩素の特徴を簡単に説明すると、遊離残留塩素は殺菌力は強いが残留しにくく、結合残留塩素は逆に殺菌力は弱いが残留しやすいという性質があります。水中に2種の残留塩素が混在しているわけですが、ビルメンの点検では遊離残留塩素の濃度で殺菌力を計ることになります。そのためビルメンの点検で残留塩素といえば遊離残留塩素を指します。

 ちなみにプールで強烈な塩素臭がするのは、遊離残留塩素と人の汗や尿が結合してできた結合残留塩素であるクロラミンが原因で、塩素濃度が高いからではないそうです。

何故行うの?

 一般家庭のように水道局から直接蛇口まで水が供給されているのであれば問題ありませんが、ビルのように一旦受水槽に貯水される場合は色々な問題により塩素濃度が薄くなることがあります。受水槽の管理状態が悪く雑菌が混入すると、塩素が消費され濃度が薄くなりますし、貯水期間が長いだけでも濃度は薄まります。

 濃度が薄くなれば殺菌効果が薄れますので、菌の繁殖などで重篤な健康被害に繋がる恐れがあります。そのような事態を避けるため、ビル管法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)で残留塩素の定期的な濃度測定を義務付けています。

塩素について


 塩素はその殺菌力に反し人への害が少ないため全世界の飲料水に使用される物質です。とは言え、日本の水道に使用されている次亜塩素酸ナトリウムはキッチンハイター等の漂白剤に使用されている薬剤です。強アルカリですので、使用量を誤るとそれ自体大変危険ですし、酸と混ぜると猛毒の塩素ガスが発生します。プールや井戸水の管理が業務に含まれている場合、次亜塩素酸ナトリウムの補充作業がありますので、慎重な取り扱いが求められます。

 欧米では飲料水への塩素濃度の上限が定められていますが、日本にはありません。(日本の場合は1.0ppm以下が望ましいとうたっていますが、強制ではありません。)WHOでは5.0ppmまでは人体に影響がないと正式に表明していますが、実際は1.0ppmでも塩素臭が強く、人によっては肌が荒れます。

 東京都ではろ過フィルターやオゾン殺菌を利用するなどして塩素の濃度を極力抑え、今では飲料水の残留塩素濃度は0.4ppm以下になっています。昔(20年以上前)に比べ、水道水の質は全国的にもかなり向上しているようです。

 ちなみに、塩素は煮沸によって除去が可能ですが、沸騰直後数分は毒性(発がん性)の強い塩素化合物クロロホルムの濃度が逆に高くなるので注意が必要です。

検査の基準と頻度

残留塩素濃度の基準や検査頻度は水の用途によって若干異なります。

飲料水

・塩素の含有率は0.1ppm以上
 ※病原性微生物に著しく汚染されるおそれがあるとみなされる場合は0.2ppm以上
 昭和50年以前の建物で躯体利用(既存不適格)の受水槽の場合は、
 躯体の亀裂などにより水槽が汚 染される可能性が6面体の受水槽より高いです。

・検査頻度は一般的なビルの場合は専用水道となるので
 毎日実施することになります。

「専用水道」とは、寄宿舎、社宅、療養所等における自家用の水道その他水道事業の用に供する水道以外の水道であって、次のいずれかに該当するものをいいます。

・100人を超える者にその居住に必要な水を供給するもの

・その水道施設において、人の飲用、炊事用、浴用その他人の生活の用に供する1日最大給水量(1日に給水することができる最大の水量をいう。)が20立方メートルを超えるもの

ただし、他の水道から供給を受ける水のみを水源とし、かつ、その水道施設のうち地中又は地表に施設されている部分の規模が政令で定める基準(口径25ミリメートル以上の導管の全長が1500メートル。および、水槽の有効容量合計が100立方メートル)以下のものは除きます。

東京都福祉保健局


・採取場所は系統の末端

給湯

・塩素の含有率は0.1ppm以上
 末端の給湯栓の温度が55℃以上であればその温度を記録することで代替えすることができる。
・検査頻度は7日に1回
・採取場所は系統の末端

雑用水(中水)

・塩素の含有率は0.1ppm以上
・検査頻度は7日に1回
塩素以外に以下の検査を実施する必要があります。

項目基準措置回数
ph値5.8以上8.6以下7日以内ごとに1回
臭気 異常でないこと7日以内ごとに1回
外観ほとんど無色透明であること7日以内ごとに1回
大腸菌 検出されないこと2月以内ごとに1回
濁度※2度以下であること2月以内ごとに1回
水栓便所用水の場合は除外

ちなみに雑用水とは・・
トイレの洗浄水、修景、散水、洗車、冷房用水などの用途に下水等の再生水や雨水など、上水道と比較して低水質の水を使用することの総称です。(中水と同義。)

検査の方法


 基本的にはDPD法という試薬を使った遊離残留塩素の検査になります。採水は給水管末端のにある水栓で行います。検査方法は至って簡単で、試薬を入れた試験管に水道水を入れてその変色具合で塩素の濃度を測ります。

 注意点としては、試験管を採取する水でよく濯いでから試薬を入れます。複数個所検査する場合、濯いでいないと、前に採取した水の影響を受けます。

 試薬は水を入れて1分以内に反応するので、数分経って発色しても塩素濃度とは無関係と見なされるそうです。

塩素が出なかった場合

 検査をしても塩素が検出されないことはよくあります。建物が数日休館した場合、受水槽の水が利用されない為塩素が抜けてしまいますし、利用頻度の低い系統では配管内の水が消費されず塩素が抜けます。

 その場合は試薬が反応するまで暫く水を放出します。学校などは長期の休館がありますので、飲料水が死に水(動かない水)となり、水質が悪化します。再開時には各系統の末端で水の放出を行うなどして、死に水対策をする必要があります。

 暫く水を出しても試薬が反応しない場合は、何かしらの問題が発生していますので、系統の水槽や受水槽の直近から水を採取し検査を行います。それでも反応しない場合は上司に報告し判断を仰ぎます。

某大手スーパーのシャレにならない話

 2000年代に某大手スーパーの受水槽の中で遺体が発見されたことがありました。(詳しくはネットで検索して下さい)状況から1か月は受水槽内に遺体が存在していたようですが、スーパーの見解では毎日の点検で異常は認められなかったそうです。

 専門家の意見としては、槽内に有機物が長期的に混入して残留塩素濃度に減少が見られないのは疑問だとか。このようなケースは滅多にあるものではありませんが、飲料水は人の命に関わりますので、特に不特定多数の人が訪れる施設での水の管理は慎重に行ってほしいものです。 

まとめ

 残留塩素濃度測定の作業自体は非常に簡単ですが、重要な点検の一つです。築50年越えのビルも珍しくなくなってきましたが、建物の老朽化と同じくして貯水槽も古くなっています。ちょっと怪しい物件に勤務されている方は、水道関係を今一度見直した方が良いかもしれません。自戒を込めて。

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